小説『ゾルダーテン』chap.04:眠り姫02

 三本爪飛竜騎兵大隊がこの城へ赴き滞在するのは数回目だ。故にヴァルトラムの頭の中には大体の城の構造は入っている。自分が前回利用した部屋まで迷うことなく辿り着いた。案の定扉の鍵は開いていた。
 部屋には照明が灯され埃っぽさも無い。ベッドには清潔な真っ白なシーツ、花瓶に挿された生花は瑞々しく、客人を迎えるべく準備が整っている。やはりこの部屋で間違いないらしい。

 ヴァルトラムはベッドの上にビシュラを放った。
 ばすぅん、と一度大きくバウンドしてスカートがはためく。ビシュラは両手を突いてガバッと体勢を立て直した。


「一体何のおつもりですか歩兵長!」

「長距離移動で疲れた、だから部屋で休む」


 激しく問い質したビシュラに、ヴァルトラムは淡々と言い放った。


「わたしまで御部屋に連れてこられたのはどういうおつもりですか」

「オメェは俺と同じ部屋だ。何か文句あんのか」


 ビシュラはヴァルトラムを見上げてジーッと見詰める。「何だ」と高圧的に促され、胸の内を言ってやろうと心を決めた。


「意見することをお許しいただけるのでしたら申し上げます。わたしは今まで通りフェイさんと同室を希望します。歩兵長がお体をお休めになるのに悪いことなどありませんとも。明日は騎兵長との会議が御座いますから寧ろ充分な休息をとっていただきたいと思っております。お一人部屋のほうがごゆっくりお休みいただけますでしょう。歩兵長はわたしを同室にすると仰有いますが、そもそも一隊員と歩兵隊長が同室など通常――」

「あ~~~、ゴチャゴチャ煩ェ」


 ゴキゴキッ。


 ヴァルトラムは首の骨を豪快に鳴らした。
 なぜ今このタイミングで鳴らしたのですか。不快感の表れか。
 その行動を威圧的に受け取り、ビシュラはビクッと体を縮める。文句があるのかなど言ってみても人の話に耳を貸す気などないのだ、この人は。そんなお手柔らかな人物などではない。


「アイツに呼ばれりゃ二つ返事のクセによォ」

「総隊長の御命令です。拒否する理由がありません」

「上の言うことには従うのが当然っつー割には俺にはよっぽどじゃなきゃ近寄ってきやしねェ」


 眉間に皺を寄せた面倒臭そうな表情、苦々しそうな低い声、威圧的かつ高慢な態度、つまりはヴァルトラムは機嫌が悪い。
 いつも通り行動していたし特別なことなど何一つしていない。少なくともビシュラ自身はそのつもりだ。車に乗ったときもどちらかと言えばヴァルトラムの機嫌は良かったほうに思う。だからビシュラにはヴァルトラムが不機嫌になる理由が分からない。


「俺に従え」


 ビシュラは困惑気味に眉根を寄せる。


「……わたしは歩兵長に従っています」

「その目だ」


 ヴァルトラムの切り返しは早かった。ビシュラがギクリとするほどに。


「言いたいことはあるが言わねェでとりあえず従ってるっつうその目が気に食わねェ。従うなら従うで反抗心なんざ見せるんじゃねェ。目障りだ」


 ビシュラはヴァルトラムから目を背けた。
 反抗などできる訳がない。弱肉強食・実力主義の隊内では確実にヴァルトラムのほうが優れている。ヴァルトラムは強者で、ビシュラは弱者だ。ヴァルトラムは支配者で、ビシュラは被支配者だ。


「歩兵長に対して反抗心なんて……」

「だったら一々抵抗せずにすんなり従え」


 ヴァルトラムがバキバキッと指の骨を鳴らし、ベッドに片膝を乗せた。ビシュラは腰に携えている短剣の柄を握る。


「ちょっ、暴力ですかっ」


 パキィンッ。


 短剣を鞘から抜いた瞬間、刀身の腹を裏拳で小突いて弾き飛ばされてしまった。
 「あ」とつい短剣が飛ばされた方向を追い掛けている隙に、フッと視界が翳った。ヴァルトラムが覆い被さってきてベッドに押し倒された。


「俺がオメェに暴力使って何か得があんのかよ。弱っちいくせによ」

「ど、退いてくださいっ」


 硬い胸板を必死に押し返そうとするがビクともしない。
 力で対抗するなど無駄なことは止して正当で勝負したほうが良さそうだと判断し、ビシュラはキッと強い目付きをヴァルトラムに向ける。


「総隊長の御部屋に参上するように言い付けられています。歩兵長も御存知でしょう」

「だから、その態度が苛つくっつってんだ」

「命令を遵守するのは反抗的な態度ではないでしょう?」

「俺の命令には従わねェクセにアイツの命令には従うっつうことだろうが。テメェの男より仕事をとるっつうのが可愛げがねェ」


 その言葉は想定外過ぎた。脳天を撃ち抜かれたような衝撃。


「お、とこ……?」


 ヴァルトラムの言葉に準えてうっかり口にした途端、耳から顔から熱が噴き出してくる。ビシュラは頬をかぁああ、と赤くして俯いた。
 ヴァルトラムはクハッと吹き出してビシュラに顔を近付ける。


「やっと可愛いツラ見せたじゃねェか、ビシュラ」


 ビシュラは両手で顔を覆う。触れた顔面が自分でも分かるほど熱くて、どれだけ真っ赤になっているのか想像すると益々熱が上がる。


「歩兵長とわたしは、その……恋人同士になるのですか……?」

「あァッ?」


 ヴァルトラムはチッと舌打ちし、ビシュラの手首を掴んで顔から退けさせた。


「オメェのそういうところも気に食わねェ」

「歩兵長?」

「俺の女だっつう自覚がねェ。オメェ、本当に俺に惚れてるんだろうな」

「歩兵長は、どうなんですか……? どうしてわたしなんかを」

「訊いてんのは俺だ」


 答えなくてはいけないと思った。ヴァルトラムは大層機嫌を損ねているし、自分の気持ちに嘘を吐くような局面ではないと思った。

 だがビシュラの唇は半開きで停止した。剰りにも色恋に不慣れすぎるから、己の心根を晒すことに不慣れすぎるから、羞恥心が蓋をした。
 悪気はない。けれども羞恥というのは御すのが難しい感情だ。喉まで出かかっている言葉を引き留める。

 そしてそれがヴァルトラムの機嫌を益々一層害することになる。


 ヴァルトラムはビシュラの太腿に手を這わせ、スカートの中に潜り込ませる。


「なにをっ……」

「体に訊いたほうが手っ取り早そうだ」

「わたしは総隊長の御部屋に行かなくては……っ」


 ヴァルトラムはビシュラの口の中に親指を突っ込んだ。


「もう一遍アイツの名前を出したら許さねェぞ」


 ビシュラはヴァルトラムの目をジッと見詰める。多分怒ってはいないが、ズィルベルナーや他の隊員なら難なく殴り飛ばされている機嫌の悪さだ。相手がビシュラだから思い留まっているのだろうが、ビシュラとて絶対的に手を上げられない確証などない。

 ヴァルトラムの指が口から退かされると息を小さく吸い込んだ。


「わたしは、総隊長の御命令で、御部屋を訪ねなくてはならないのです。退いてください、歩兵長」


 ヴァルトラムが聞き零したりしないように敢えて一語一語をゆっくりと、わざとしっかりと、発音した。


「テメェー……いい度胸してんじゃねェか」


 ヴァルトラムの表情が一気に険しくなり、ビシュラはゴクッと生唾を嚥下した。自分でもやや過ぎるくらいに反抗的な態度だった。
 だがビシュラにとって上官からの命令は遵守して当然であり、同時にヴァルトラムの命令には正当性が無いものであり、天尊からの命令のほうに重きを置いた結果だ。


 ヴァルトラムはビシュラの胸倉を掴んだ。ファスナーを引き下げることもせず無理矢理左右に開いた。


「きゃぁああああ!」


 ブチブチブチィッ、とファスナーや服が裂ける音と甲高い悲鳴が谺する。


「喚くな。反抗するってことは覚悟はできてんだろ。……まぁ、喚いたところで誰も助けちゃくれねェがな」


 ヴァルトラムの口の端が吊り上がる。その表情を見詰めるビシュラはカタカタと震えていた。
 表情こそ笑っているがこれは確実に怒らせた。スマラークトの瞳の奥が燃えているかのようにギラギラと光っている。

 ビシュラの本能は逃げ出すことを選択した。急いで上半身を捻ってヴァルトラムの下から這い出ようとする。
 だが背を向けようとした瞬間服を掴まれ、剥がされながらベッドに引き倒された。

 ヴァルトラムはビシュラの鎖骨に顔を埋める。鎖骨を舐められてゾクッとした直後、カチリと硬いものが当たった。


 ガリッ。


「いっ……!」


 偶然歯が当たったのではない。鎖骨に歯を立てて噛み付かれている。鋭い痛みに耐えかねたビシュラは必死にヴァルトラムを叩く。


「つっ! やめてください歩兵ちょっ……いた!」


 硬い肩に何度も何度も握り拳を叩き付けた後、やっと痛みから解放された。
 だがそれも束の間。ヴァルトラムの舌が噛み跡の上を這い、ピリッと痛みが走る。ビシュラはヴァルトラムのシャツを握り締めて痛みに耐える。
 ヴァルトラムの舌は鎖骨から首筋へと辿る。傷口を通り過ぎるとゾクゾクッと悪寒のようなものが走った。

 首筋に吸い付かれ「ん」と僅かに声を漏らし、身を縮める。このまま首筋に食い付かれたらと思ったら体が硬直する。
 きっとヴァルトラムがその気になれば薄い皮膚を食い破って血管を絶ってしまうくらいは訳はない。


 恐い。恐い。恐い。
 この男に逆らうとはこういうことだ。
 圧倒的な強靱さで踏み躙られるということだ。
 モンスターの前に身一つを投げ出すようなものだ。

 ビシュラの顔を見て、ヴァルトラムは笑った。
 目に涙を浮かべているビシュラを見てヴァルトラムはクッと笑ったのだ。


「気持ちよくしてやるからそんなツラしてんじゃねェ」


 その言葉は、慈悲なんかじゃない。
 怯えるビシュラを見て愉しんでいるのだ。支配者たる立場を実感して心地良いのだ。憐憫の情など持ち合わせている訳がない。






「あっ……ん!」


 漏れる嬌声。高く、甘く、静かな部屋に響く。
 自分の声を聞くのが嫌で塞いでも、すぐにその手を捕まえられてしまう。

 ヴァルトラムはビシュラの股間に顔を埋め、わざと水音を立てて刺激する。
 黒い茂みの中に舌で分け入り、硬くなった莟をジュルッと吸い上げる。何度も執拗に舌で撫でるとビシュラの腰がビクッビクッと跳ねる。


「んっ……やっ、んんっ」


 体中の快感が否応なしに秘所に集まってくるのが分かる。分かるのに最早自分の脳では制御することができない。反応すればそれだけヴァルトラムを喜ばせることは分かりきっているのに、太腿の痙攣を抑えることができない。


「あっあっ……またっ……!」


 ビシュラは力一杯瞼を閉じ、ヴァルトラムのシャツをきゅうっと握り締める。
 一カ所に収斂した快感は頂点に達し、弾けて一気に腰を駆け抜けた。

 ビシュラの手から力が抜け、ヴァルトラムのシャツを掴んでいられなくなってずり落ちた。ビシュラは力なくベッドに横たわった体勢のままヴァルトラムを見る。


「これで何度目だ。数えてるか?」

「もう、許してくださ……」


 ぐずっと鼻をすする音。ビシュラの目から涙が零れ落ちた。
 何度も何度も絶頂に至らしめられ、まるで自分の体ではないかのように力が入らない。ヴァルトラムの無慈悲さを知っていてもこの行いから脱出するには懇願するしか術がない。
 自由を封じられて強制的に与えられる快楽の前に、我を通す心は折れた。最早ヴァルトラムに逆らったことに対しての後悔しかない。


「もう泣き入れんのか。オメェの覚悟は大したことねェな」


 ヴァルトラムは愉快そうに口の端を歪める。


「許す気なんざねェけどな」


 頭を持ち上げビシュラの胸に口付ける。柔らかな乳房を強く吸い、上気した肌に花弁を落としていく。
 先端の桃色の飾りに吸い付いて舌先で刺激すると、ビシュラの体がビクッと跳ねた。


「もっ……ヤダ……ッ」


 胸の突起を舌で弄びながら秘所に手を伸ばす。湿った茂みを指でまさぐって聖裂を探し当てるとそこは充分に撓んでいた。
 愛液を絡ませた節ばった太い指が内部へと押し入っていく。


「んっああ……歩兵ちょ……っ」


 異物感と共に快感がゾクゾクッと背骨の上を駆け抜ける。


「あー?」


 ヴァルトラムは質の悪い悪戯っ子のように笑いながらビシュラの内部に指の根元まで押し込んだ。内部の熱を味わうようにゆっくりと内壁をなぞる。
 抜いたり挿したり折り曲げたりしてビシュラの内側を好き勝手に探る。


「あっ、やぁっ……!」


 グチュンッ、グジュッグジュッブジュンッ。


 ヴァルトラムの指の動きはすぐに速度を増した。湧いてくる愛液も豊かになり指の動きを助ける。
 内壁を擦るように抜き差しされる度に快感が増して増して、太腿がブルブルと震える。
 縋り付くもののないビシュラはシーツを力一杯握り締める。だが力の入りきらない指では滑って離してしまう。その度に握り直す。


「そんなに気持ちいいか? ビシュラ」

「やぁあっ!」


 ヴァルトラムの太い指が或る一点に触れた瞬間、ビシュラは背を大きく仰け反らせた。
 その反応を見て、ヴァルトラムは白い歯を見せてニヤリと笑った。


「ここがいいのか」

「あっあん! やあっ! ダメっ……そこダメぇ……!」


 途端に大きくなったビシュラの声はヴァルトラムに確信を与えた。
 声が堪えきれないビシュラは自分の口を塞いだ。


「んっ! んんんっ」


 グリュンッ、グチュッ、グジュンッグジュッ。


 口を塞ぐのに精一杯で耳を塞げないからヴァルトラムが掻き鳴らす水音が聞こえてしまう。卑猥な水音がビシュラの羞恥心と共に快感を煽る。


 ジュプッ。


「んうっ!」


 ヴァルトラムはもう一本指をねじ込んだ。掻き回されて緩みきった肉は太い二本の指を難なく呑み込み、吸い付くように締め付ける。
 ビシュラの肉は締め付けながらもグチュングチュンッと愛液を溢れさせるから指の動きは速まる一方だ。

 ビシュラの体が小刻みに震え、ヴァルトラムは臨界が近いことを察知した。


「もうイクのか? マジでここがイイらしいな」


 ビシュラはふるふると首を横に振る。


「イキそうなんだろ? 我慢するこたねェ、イケよ。……我慢なんざできねェだろうけどな」


 ヴァルトラムはビシュラの口を塞いでいた手を退けさせた。
 ビシュラは非難の目を向けるが、ヴァルトラムはそんなものは物ともせずにビシュラの感じる箇所を執拗に責め続ける。


「あっあっあっ……ダメ! んんっ……」


 ヴァルトラムの指によって高められた快感と熱が弓を引き絞るように収斂していく。何度も何度も味わわされたのに、この体からは快感がいくらでも溢れ出てくる。自分の体がこんな風になるなんて自分でも知らなかった。


「やっ、あぁあっ……!」


 ビシュラが一際甲高い声を上げた。同時に柔らかい内壁に指がきゅうっと締め付けられ、ヴァルトラムは満足げにニヤッと笑った。


 ずるり、と内部から指を引き抜かれると、ビシュラはぐったりと脱力した。シーツに顔を伏せ、肩を大きく上下させて呼吸をする。

 ヴァルトラムはビシュラの肩に手を置き、体勢を仰向けにさせた。ベッドに手を突いてビシュラの顔を覗き込む。


「どうして……どうしてこんなことを……なさるのですか」


 ビシュラは懸命に息を継ぎながら口を開く。


「歩兵長は情けないと……お思いになるでしょうけど……わたしには、こういう歩兵長は……本当に恐いんです」


 瞬きをする度に、睫毛に絡んだ雫がポロポロと零れる。薄紅に上気した頬を次から次へと滑り落ちてゆく。



「こんなことされたら……歩兵長のことが好き、なのに……恐くなって……」



 ヴァルトラムはビシュラの横に肘を置き、顔を近付けた。


「もう一遍言え」

「?」


 ビシュラは不思議そうな不安そうな表情でヴァルトラムを見詰める。この人の真意が分からない。


「俺のことが好きだって?」

「……はい。そうでなければ歩兵長が《観測所》にいらしたとき、付いていったりしていません」

「そうか。オメェの口から初めて聞いた」


 ビシュラは「あ」と声を漏らした。指摘されて初めて気付いた。自分の中ではヴァルトラムへの恋心を意識していたけれど、緋には打ち明けたけれど、ヴァルトラム本人に告げたことは無かった。
 告げたところで一笑に付されるかと思っていたのに、意外にもヴァルトラムは「そうかそうか」と一人満足そうに肩を揺すっている。


「オメェは本当に可愛いヤツだ、ビシュラ」


 喜んでもよい台詞のはずなのに、ヴァルトラムの表情を見ると背筋が凍った。
 口角を引き上げて笑っているのに、双眸はギラギラと煌めいている。怒っているのか喜んでいるのか分からない。否、嫌な予感がするのは本能的に恐怖を感じ取っているからこそだ。


「益々気に入った。だが気に入ったモンに歯向かわれんのはとんでもなく腹が立つ。二度と俺に逆らえねェように教え込んでやらァ」


 ヴァルトラムはビシュラの片足をシーツの上から掬い上げるように抱えた。


「女は何度でもイケるっつうが本当かどうか試してみるか? あン?」


 ビシュラは必死に身を捩るが満足に力が入らない。


「もう無理ですっ……ごめんなさい、ごめんなさっ……! 歩兵長に逆らったりしません……!」

「バカがよ。今更謝ったって遅ェ」


 ヴァルトラムに反旗を翻した代償は剰りにも大きく、ビシュラへの責め苦は一晩中続いた。





Fortsetzung folgt.

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