◇ 初任務 01 三本爪飛竜騎兵大隊 ( リントヴルムリッター ) 庁舎、トレーニングルーム。 トラジロは腕組みをして黙り込み、とある人物を眺めていた。その人物とはつい先日 三本爪飛竜騎兵大隊 ( リントヴルムリッター ) に異動となったビシュラ。騎兵隊で引き取るとは言ったものの、ビシュラを見詰めるトラジロの表情は「無」だった。 騎兵隊の一人が棒で打ち込み、ビシュラはそれをプログラムで創出した《牆壁》で阻む。隊員がかなり加減をしていることは誰の目にも明らかであるが、ビシュラはおっかなびっくり必死の形相だ。その様を眺めていると気を抜くとうっかり溜息が零れてしまいそうになる。 「これは想像以上に……」 コツコツコツッ、という足音が聞こえてきて、トラジロは出入り口のほうを振り返った。其処には予想通り、 緋 ( フェイ ) の姿。本日は天尊、ヴァルトラムと共に他隊との会議に出席する予定が入っていた。時間帯からしても会議終了後、その足でトレーニングルームにやって来たのだろう。 「お疲れ様です、 緋姐 ( フェイチェ ) 。総隊長とヴァルトラムはどうしましたか」 「二人とも話があると引き留められていたぞ。じきに戻るだろ」 トラジロに応えつつ、緋はビシュラのほうへ視線をやる。 「ビシュラは何をやってるんだ?」 ちょこまかと動き回っているビシュラは、緋の目には到底トレーニングには見えなかった。それは他の隊員たちにとっても同じ。遊んでいる子どもを見守るように笑いながら眺めている。 「体力測定を少々」 「異動の時に回ってきたプロフィールには目を通したんだろう?」 「大凡プロフィール通りだから困っています」 トラジロからはついに溜息が漏れてしまった。 「プログラムを扱えるのもデスクワーク慣れしているのもありがたいですが、運動能力のほうは多少難アリでしてね」 「あれくらいが平均値じゃないか? “普通のごく当たり前の非戦闘員”だぞ」 「実技の成績はよくなかったと自己申告していましたがまさかこれほどとは」 「お前が、普通じゃない環境だったんだよ。幼い頃からズィルビーみたいなのがずっと近くにいたんだからな」 緋は「アハハ」と笑い飛ばした。